思い出し旅4
弘大(ホンデ)で数日過ごしている間は、景福宮に行くとか、光化門広場に行くとかもなく、ショップをひやかしたり、夜は以前訪ねてすごく素敵だったカフェバーを再訪したりした。
夜は、暗い歩道の合間合間に、灯りがともったり小さな看板を出している無数のライブハウスが現れて、地下へ続く階段がぽっかりと口を開けて待っている。
私と友人はどこのライブハウスが熱い、とか弘大界隈のミュージックシーンは全く分からなかったので、とりあえずNaverで検索して出てきた、老舗といわれるらしいライブハウスに行って見た。
確か5,000ウォンでワンドリンク付きだった、ように記憶している(もう少しだったかな)。
平日だったていうのもあるけど、お客さんは私と友人しかいなかった。本当に無名の学生やフリーターみたいなミュージシャンが、誰に向ける訳でもなくやっている感じが、異物である私たちをその場になじみやすくしてくれた。
1人目は、独特な女の子。電子キーボードやシンセを使って、ドリーミイな音色を奏でる。不思議な連想の結果、「核廃棄物」という楽曲を作り上げていた。
2人目は、同年代か少し上くらいの男性。「小さい頃から、自分は、他の人たちとはどうしてもなじむことができなかった。その分、不幸じゃないといけないような気がしていた。今の方が、ラクに笑えるような気がする。」みたいなことを言っていたうろ覚えだけど。
中二病だと言われたらそれでおしまいなんだけど、他者と自己の間の居心地の悪さ、みたいなものについて真剣に考えているのって、太宰治みたいな、三島由紀夫みたいな感じがして、好きだった。
ふつうの人が、スムーズにこなす生活の中で気づくことも感じることもなくスルーする些末な心の動きとか、小さな違和感とかを、いちいち小石につまづくように感じ取ってしまって、しかもその小石を拾い上げてじっと考え込んでしまうような、ひとたち。
音楽として発露することで、自分を保っているんだろうなー、と思ってしまう。
同じように小石につまづくにのに、その苦しさを表現で代替するのが不得手な私たちは、その蜜を求めて夜のホンデを徘徊することになる。